あらゆることが多様化、個別化する現代社会の課題の一つは、人々が協働するための一つの大きな「物語」を共有しにくい点にある。国境を越えた人の移動が常態化し、社会の多様性が増している現在では、その問題はさらに深刻化している。本プロジェクトは、そのような時代において一人ひとりの「個の物語」をコミュニティが共有し得る「地域の物語/パブリックの物語」へと変換する場を生み出し、それを体験した人々によって、共感に基づく相互理解に根ざした社会を築き上げていくことを目的とする。
新型コロナウィルスのために、当初計画の通り進めることは困難であったが、令和2年度事業の続きとして設定した今回は、テーマを「尊厳あるケア」と再設定し、物語の紡ぎ手となる参加者を、高齢者や障がい者、ターミナルケアが必要な患者等と向き合うソーシャルワーカーの2名(両国で4名)に絞った。約1か月のサイクルで、各国のアーティストが参加者とワークショップをおこない、彼らの「物語」を共有するとともに、参加者が日常的に向き合っている、困難を抱えた人々が尊厳を保ち続けるケアを受けるためにアートが貢献できる方法を共に考えていった。各回、ケアにまつわる特定のトピック(「食」「お金」ほか)を設定し、各国でのワークショップのあとに、日本とシンガポール両チームでの共有セッションを行うことを繰り返した。
助成期間終了後も、ワークショップと共有セッションを継続し、成果は2022年に8月に東京、シン
ガポールそれぞれで発表する予定である。
Achievements of FY 2018 https://grant-fellowship-db.asiawa.jpf.go.jp/en/grant/cc1808/
- Related Countries
- Japan, Singapore
- Co-organizer(s), Cooperator(s)
- Drama Box
From the Organizer
国際交流基金からの助成を受けたことで、超高齢化社会に突き進むアジアに暮らす人々が抱える課題について、多様な視点から、演劇活動を通じて検証することができた。老いや死をどう扱っていくかの正解を見出すことは難しいが、社会構造や歴史が異なる日本とシンガポールの両国が、それぞれの立場性を超え自由に発想する機会を持てたことで、固定概念に囚われずに「尊厳あるケア」についての考えを巡らせることができた。