アジア・ドキュメンタリーの聖地と呼ばれる山形県の温泉地に、新作に取り組む映像作家たちが長期滞在し、国際交流を通して思考を深めるアーティスト・イン・レジデンス(AIR)。
3回目の今回はコロナ禍と重なり、東南アジアの映像制作者4名が、各々の国で30日間の滞在制作に取り組んだ。日本の参加者とオンラインでコミュニケーションを取りながら切磋琢磨しあい、事業目的を達成した。豪雪地帯・大蔵村の肘折温泉をベース基地に、南国バリ島のデンパサール、タイ北部の文化都市チェンマイをリアルタイムでつなぐ「共同」生活となった。
AIR期間中、講師や他の日本の映像制作者3名も加わりネット会議システムを通して参加する短期「乱稽古」(ワークショップ)も実施した。
本年のAIRパートナーはインドネシア、デンパサール(バリ)にミニシアター・ゲストハウス・ワークスペースを兼ねた建物を運営するミニキノ。インドネシア人参加者をサポートする滞在拠点の役割を果たした。
8月に国内参加者が対面、国外参加者はオンラインで交流する追加ワークショップと野外上映会を行なった。実質的には半年以上もの長期間に渡って、東南アジアと日本の映像制作者の協働事業が実現し、作品制作、各参加者の学びの深まりをサポートすることができた。
事業ウェブサイト https://ddcenter.org/dojo/
平成26年度 アジア・市民交流助成実績
https://grant-fellowship-db.asiawa.jpf.go.jp/ja/grant/pp1417/
平成28年度 アジア・フェローシップ実績
https://grant-fellowship-db.asiawa.jpf.go.jp/ja/fellow/fs1608/
平成30年度 アジア・文化創造協働助成実績
https://grant-fellowship-db.asiawa.jpf.go.jp/ja/grant/cc1804/
令和元年度 アジア・文化創造協働助成実績
https://grant-fellowship-db.asiawa.jpf.go.jp/ja/grant/cc1904/
- 関連する国/地域
- インドネシア, タイ, シンガポール, 米国
申請団体より
本事業を大蔵村肘折温泉に移して初めて開催するにあたり、現地に何度も足を運び、地域と関係を深めるべく準備した。その中で「同じ空間を共有する」対面交流の場の実現を最後まで模索し、国と県のコロナ警戒レベルと受け入れる地域コミュニティの空気を重視した。刻々と替わる感染対策のガイドライン確認、各助成団体に提出する計画書と予算案の書き替え、各参加者との相談と調整などが続き、たいへん苦労した。開催形式をほぼ完全オンラインに移行することを決定し、プログラムを組み替えるまで悩みが絶えなかった。
人と人の対面接触と交流が忌避される時代において、国際文化交流の意義や価値をあらためて考えさせられる期間だった。
しかし実際にオンラインで日々の交流が始まってからは、若い参加者たちの意欲とコミュニケーション力、講師たちの熱意と包容力、糸目なく知見を分け与える誠意、そして各映画企画の魅力と可能性に、それまでの杞憂が吹き飛んだ。ビデオ会議の形式と言葉偏重の不自然さ、長時間画面に向かう心身の負担に注意しながら思ったのは、本事業で「交流」のもう一方の柱である「熟考」と「深化」の場に各参加者が確実に反応していること、そして事業目的の達成に価値があるという確信だった。
本プログラムで大きく形を変えた企画の一本(タイの企画「Scala」)は、一年を経ずに完成し、ベルリン国際映画祭から正式招待を受けた。日本の企画(「絶唱浪曲ストーリー」)もまもなく完成を迎え、年内公開を控える。この意味で事業の果実が確実に実りを見せている点を頼もしく思う。