フィリピンのルソン島北部山岳地方バギオ市に拠点を置く環境NGO コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(Cordillera Green Network)が、フィリピン全土で土壌崩落、水質汚染などの環境問題を引き起こしている鉱山開発問題をテーマに、山岳地方の先住民族の若者を対象に演劇ワークショップを開催した。ファシリテイターには日本から吉田智久、花崎攝などの演劇専門家と、民族楽器を使った即興音楽で舞台音楽を担当する水町克を招へい。一方、フィリピンからは地域の環境問題に詳しい環境教育ファシリテイタ―、民族音楽の指導者、舞台美術家を招き、深刻な社会問題を先住民族の伝統芸能を盛り込んだ音楽劇として制作し、バギオ市、マカティ市、インドネシアのバンダ・アチェ市で発表公演を行った。また、バンダ・アチェでは2004年の津波被害、フィリピンと共通する進む開発の引き起こす環境破壊の問題を、フィリピン人参加者とアチェの高校生20名とともに取材、関係者にインタビューをし、それを元にした演劇ワークショップを行った。 フィリピンとインドネシアでの3回の発表公演では応用演劇の手法であるフォーラム・シアターを取り入れ、観客とともにテーマである社会問題解決の方法を考える場を創出した。
平成30年度実績 https://grant-fellowship-db.asiawa.jpf.go.jp/ja/grant/cc1816/
- 関連する国/地域
- 日本, フィリピン, インドネシア
- 協力団体/協力者
- TIU Theater
- コミュニタス・ティカール・パンダン
申請団体より
事業地であるルソン島北部山岳地方とインドネシアのアチェ州は、いずれも豊かな自然資源をもつ地域である。経済成長の中で開発が進み、さまざまな環境問題が起こっているが、住民たちには環境問題に関する知識や情報は乏しい。本事業では、次代を担う青少年が自ら環境問題を取材し、ファシリテイタ―たちがそれを演劇作品とするための指導をした。参加者自身の取材から生み出された言葉による演劇は、プロの劇団の公演のような演技力はないものの、十分に観客に訴える力があった。 アチェにおいては長い紛争を経て、地域住民同士が敵対せざるをえない環境にあり沈黙を強いられていたため、表現をすることをためらう空気がある中で、若者たちがフィリピンからの同世代の演劇を目にし、社会問題について舞台という場を借りて口を開くきっかけを与えることができたのは大きな成果であった。ワークショップが、地域の問題を自分たち自身の問題として再認識する機会となったことも、今後に向けて意義のあることだった。 アチェ州もさまざまな民族が暮らす地域であるが、本年度事業では、山岳部の先住民族の山岳地方への訪問はかなわなかった。より深く伝統文化の共有と共通する社会問題の認識を高めるために、テーマを絞り、取材をていねいに行う演劇ワークショップを継続していきたい。