(2019年度)
2018年ジョグジャカルタとクアラルンプールを皮切りに始動。3年かけてアジアの諸都市を巡り、アジア出身のキュレーターが協働で、同時代の舞台芸術においてこれまで批評されてこなかった論点の提示と、十分に紹介されていない作品の文脈を埋め直すことを目的とする。公演、ワークインプログレスやリサーチのプレゼンテーション、作家やキュレーターのパネルディスカッション、作家のアーカイブ展示など多角的な手法で紹介し、アジアのパフォーミングアーツのネットワークを産出するプロジェクトとして活動を行う。アーティスト同士の交流・対話を重視し、パフォーミングアーツの「創造性」に主軸を置く、旅するエクスチェンジ・プラットフォームである。2019年度はフィリピンのロハスシティで開催。
(2020年度)
アジアの舞台芸術プラットフォームとして2018年よりクアラルンプール 、ジョグジャカルタ、ロハスシティで開催された本事業の最終開催地・那覇を中心とした企画をオンラインで開催。2020年は「群島アジア都市であること」「占領や植民地を経験している地域で生まれるパフォーミングアーツ」をテーマに映像配信と質疑応答を行い、2021年は沖縄の伝統舞踊、小劇場、表現者を軸にレクチャー&ワークショップ、シンポジウム、トーク&ディスカッションを通してアジア諸地域に紹介し、歴史的・文化的な差異/共通点をもつアジア諸地域との交流・対話から沖縄をアジアの中の一地域として捉え直した。大都市中心のプロジェクトでは見落とされがちなローカルな要素を掬い上げるべく、これまで培った各地のネットワークとの協力により現地広報に注力し、オンラインでも「ローカル同士の交流」を実現した。アジアの同時代アーティストたちの意見交換、創作のためのプラットフォームとなるために、相互交流を中心としたプログラム設計に注力した。アーカイブ映像(全篇英語対応)と4年間の本事業活動をまとめたPDF冊子(日英)を公開し、本事業全体の活動も総観した。
Website: https://jejak-tabi.org/
Achievements of FY 2017 https://grant-fellowship-db.asiawa.jpf.go.jp/en/grant/cc1753/
- Co-organizer(s), Cooperator(s)
- Green Papaya Art Project
- Concerned Artists of the Philippines
- Sama-samang Artista para Kilusang Agraryo/SAKA
- Atelier Mekarubase
- 一般社団法人おきなわ芸術文化の箱
- Open Network for Performing Arts Management
- 一般社団法人P
- Okazaki Art Theatre
From the Organizer
(2019年度)
ロハスシティでの開催は、これまでクアラルンプールやジョグジャカルタなどで経験した中でも一番ハードな経験だった。そのハードさは何かというと、命の危険を予期させる出来事と常に隣り合わせに現地の芸術家たちが生きていることであった。予定開催地で、実演家が不当な形で逮捕されることなどが相次ぎ開催地を変えざるを得なかったことや、イベント開催中も友人のアーティストが銃殺され登壇できなくなった、などの知らせも届いた。このような日常への苛立ちや緊張感に対する認識の違いが、日本人がフィリピンアーティストの作品を観ていて、作品がもつリアリティーがうまく受け取られず、遠くにあるように感じられる一因なのではないだろうか。
芸術作品を読み解いたり、作家を理解したりするのに、彼らや作品が生まれた背景を知らずにはたどり着けない域がある。大都市で広く作品や作家が紹介されることも大事だが、地域固有の背景が色濃いアジアにおいては、小規模でも各地域のリアリティーを深く知れるプラットフォームがより欠かせないだろう。専門家が異文化間の架け橋となるための、より深い理解を促すためのインプットの場として、本プロジェクトは、アーティストの創作基盤を強化するだけではなく、アジアの都市と都市を結ぶことができるキュレーターやプロデューサーなどの制作者や、異文化の対話を深める翻訳家、通訳者、アジア特有の文脈を分析し批評する言語を生み出すジャーナリストや批評家など、広い意味での異文化交流の担い手となる専門家の経験と実践の場でもあると再認識した。
(2020年度)
相互的な交流を主軸としたオンラインプログラム設計に関する知見を得ることができた。他アジア諸国と沖縄を繋いだ7月の企画では、参加者個人ではなく、現地会場に集まった参加者と日本側を接続することで、現地の空気感がより感じられ、参加者と登壇者との相互的な交流を促進できた。コロナ禍による交流のあり方の変化を踏まえ、オンライン企画の可能性を今後も探求していきたい。
神里雄大とマーク・テのように、本事業での出会いが共同制作のきっかけとなったものもある。アジアの作家や制作者の交流プラットフォームとして、新しい作品の創作機会を創出できたことは、大きな成果のひとつである。
関係者だけでなく広くアジア全体を巻き込んだ観客の獲得、他アジア諸国と日本のつながりへの関心を、どのように高めていくかが課題となる。
また、対面での打ち合わせができないことによる、登壇者との方向性の共有に難しさを感じた。今後オンラインプログラムを展開する中で、登壇者や作家と制作側の信頼関係の構築をより丁寧に行っていく準備が必要だと考える。