本助成事業は、インドネシアに豊かに残る「幻の紙ダルアンDaluang」に焦点を当てた。その製法は、現在主流の漉いた紙と異なり、新石器時代にさかのぼるカジノキの白皮を叩き延ばして作る樹皮紙Beaten Bark Paperと呼ばれ区分される。樹皮紙の技法と品質は素晴らしいものである。インドネシアの高い技法を示すのが4mx80cmほどの絵巻ワヤンベベルだ。厚さ0.07mmほどの透けるような均質の厚さは、世界最高とされる和紙に匹敵する。 しかし、オリジナルのワヤンべベルWayang Beberを実際に見た人、触れた人は稀となり、素材感や特徴を、間接的に伝えることが、今後の保存や修復を考える上で最優先されることであると判断した。 そこで、1.ビジュアルな「ワヤンベベル記録映像と文献情報」の発掘 2.実像が分からなくなった絵巻の制作技法解明やC-14を用いた科学的年代測定。抽象的な保存修復論議を、現実的な方向に向けていく事 3.インドネシアの樹皮紙の歴史的拠点である中部スラウェシ、ジャワ、バリをつなぐ人と情報のプラットフォームの構築および周知・普及に資する若い世代向き企画を実施した。
- Related Countries
- Japan, Indonesia, Croatia, Netherlands
- Co-organizer(s), Cooperator(s)
- Michi Tomioka
- Mufid Sururi
- Tea Škrinjarić
- Marina Pretković
From the Organizer
インドネシアの希少な樹皮紙絵巻ワヤンベベルの保護継承に寄与参画でき様々な人的つながりが形成されたこと。それらのことが、インドネシアのみならず、実態のほとんど明らかになっていない東南アジア地域の樹皮紙の起源と由来の解明にも広がっていくことが願われる。思い返せば、「インドネシアやアセアン諸国には、欧米人が来航するまでは”製紙文化は無かった、暗黒地域だった”という定説がある」と語った国立図書館館長の悲しそうな顔を、言葉を忘れられず、いつか覆したい思いが根底にあった。結果として20年間断続的に、一連のテーマで国際交流基金から助成を受ける機会を得たことは感慨深い。