アジア・フェローセミナーを開催しました(8月23日)

2018年09月05日

2014年度に開始したアジア・フェローシッププログラムは、「国の枠を超えた文化の担い手」となる人材の育成を目的としたプログラムです。これまでに計68名のフェローが採用され、文化・芸術、学術・知的交流、スポーツ、メディア・ジャーナリズム、市民社会など多岐にわたるテーマで活動を行ってきました。
8月23日(木)に国際交流基金ホール[さくら]で行われたセミナーでは、約70名の参加者のもと、2018年度アジア・フェローとして来日中のお二人に登壇いただき、最新の研究成果を発表していただきました。

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第1部では、Nguyen Nam氏(フルブライト大学創立教員)が、「ベトナム固有文字[チュノム]の世界」と題し、チュノムの成り立ちからチュノム研究の現状、そして仏植民地統治における言語・文化政策について報告されました。通訳・コメンテーターは岩月純一氏(東京大学大学院総合文化研究科・教養学部教授)が務め、Nam氏のフェローシップの受入協力者である嶋尾稔氏(慶應義塾大学言語文化研究所教授)にもお越しいただきました。
フランス人の東洋学者、エミール・ガスパルドンが日本人の仏文学者と結婚して日本で生活をし、没後彼の蔵書は慶應義塾大学の斯道文庫に寄贈されましたが、その整理の過程で嶋尾氏とNam氏が“Cours de Chu Nom”というチュノム研究に欠かせない文献を発見した、というお話は参加者を驚かせました。“Cours de Chu Nom”についてのNam氏の研究は、当時のフランス人によるチュノム研究が進んでおり、ベトナム人にフランス語を教えるだけではなく、フランス人の側もチュノムを学び、お互いに歩み寄る政策がとられていたことを教えてくれます。質疑応答の時間には、言語や文字という文化が、長い歴史のなかでどのように継承され変化し、使用されなくなっていったのか、文化交流・文化政策について触れながら議論がなされました。

第2部では、Muhamad Takiyuddin Ismail氏(マレーシア国民大学准教授)から、「選挙後のマレーシア民主主義の行方」というタイムリーなテーマで、本年5月の総選挙の結果や現在の動向について、日本や中国の果たす役割にも触れながら、報告いただきました。プレゼンテーションの後には、受入協力者である市原麻衣子氏(一橋大学大学院法学研究科国際・公共政策研究部准教授)も議論に加わり、話題は民主化にとって必要なものや今回の総選挙でマレーシアに対して行われた民主化支援の影響についてなどに発展しました。そのなかでTakiyuddin氏は、「質の良い民主主義を実現するのにはまだまだ時間はかかる。政府に対する支援だけではなく、市民社会への支援も必要である。」と述べました。また、その後の質疑応答では、選挙や民主化に対するメディアの影響や役割について活発にディスカッションが行われました。

参加者からは「非常に奥深い内容で多くの新しい知見を得ることができた」「ホットな話題でマレーシアの今についての理解が深まった」などのご感想をいただきました。
第1部と第2部でまったく異なるテーマでのセミナーでしたが、どちらも参加者にとって知的好奇心が刺激され、アセアン諸国に対する理解や関心の深まる場となりました。

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主催 国際交流基金アジアセンター