災害の記憶を語る人たちの声は聞き手の心にも強く響き、防災の知識を行動に移すための動機や災害に強い地域づくりの原動力などになる。各地で災害の体験や教訓を他の地域や将来の世代に語り継ぐ努力が続けられてきた。写真や映像、遺留品などの事物、楽曲や絵画なども災害の記憶を雄弁に語る。しかし、それを継続していくことは容易ではない。このような組織のもと、阪神・淡路大震災25周年となる2020年1月、世界各地で災害体験の語り継ぎに取り組む人々や組織が神戸の地で一堂に会して交流・連携を含め、新たな取り組みや知見について学び合い、語り継ぎを継続していくことの大切さを世界に訴えた。全体テーマ「災害の記憶をつなぐ」のもと、国内外22か国・地域から一般市民、行政関係者、ボランティア、研究者など約300人の参加を得て、公開シンポジウムや分科会、ポスターセッションなどを開催し、「語り継ぎとミュージアムの役割」「語り継ぎとツーリズム」「語り継ぎとローカルコミュニティ」「ジオパークと語り継ぎ」「災害遺構と記憶の継承」「語り継ぎと交流」などの討議を行った。
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From the Organizer
分科会の企画運営にあたって中堅クラスの防災研究者に分科会座長としての参画を求め、テーマ設定やパネリストの選定などを座長に委ねたことが、各分科会での充実した深みのある討議に繋がった。多くの参加者や座長からその点について高い評価を得ることとなった。海外からの参加者の数人からは「災害記憶の語り継ぎという事柄に初めて触れその大切さを学んだ」「本国でも広めていきたい」とのコメントもあった。今回のフォーラムをきっかけとして、英文学術誌で「災害記憶の語り継ぎ」に関する論文集を刊行する動きが具体化しており、防災にかかる学術分野で神戸発の概念を世界的な場に打ち出すこととなるのは誠に痛快な事と考える。
10年前と比べると日本での災害記憶の語り継ぎ活動はその広がりと深みを大きく増している。災害記憶の語り継ぎは日本ではもともと古来より様々な形で行われてきたものではあるが、そのことの大切さについての理解が増していることは大変心強いことである。海外でもインド洋大津波の被災地を中心に災害記憶の語り継ぎについて明示的に論じる場面が増えてきているのは確かである。しかしながら、このことについてはさらなる普及啓蒙も必要であると感じている。今回の参加者との連絡を今後も継続して、各国において「災害記憶の語り継ぎ」の大切さを訴え、テルネットなどを通じてそのような活動の支援をしていきたいと思う。